忘れの里の入口は坂道を下る。往来の真中で遊ぶ、鶏の親子にふと心を止めた時、背負ってきた時間が去っていた。 時の流れに置き去りにされた、竈がある。囲炉裏がある。 竹のザルに芋が3つ。 空っぽになった時間を何で満たそうかと考える。囲炉裏端でカッポ酒。渓流を聞く−−−のと、囲炉裏端でとっておきのバーボン。CDサウンドを聴く−−−のとどっちが乙かな・・・・・などと。
お茶一服ほど部屋に馴染んで、まず建湯へ。一枚岩の湯舟が風流の極み。日本人の風呂好きは、温泉に郷愁を溶かすから−−−だと悟った。 天降川に降りると、打たせ湯と露天風呂がある。
夕餉は、竹の猪口を満たす自家製果実酒で始まる。料理の一品一品は、最早貴重品ともいうべき野山の贅。旅のグルメの贅沢とは、かく、あるべき。 山里では季節が一番の馳走。渓流が、山林が、土が、空気が、四季折々の幸を産む。 2泊してはじめて宿の良さがわかる。2日目の夕餉は、囲炉裏で焼くバーベキュー。友達をもてなす、宿の主人のパーティメニューだとか。
秘湯、山菜、茅葺きの宿。日常を離れたところに旅の醍醐味がある。筆不精がペンを執り、社交嫌いが人を求める。ありあまる時間、小屋のサロンに人が集い、知らない同士のパーティの始まり。宿の亭主の心配り−−−かな。 この土地には、ドラマがある。坂本龍馬のハネムーン。 和気清麻呂の湯あみ。もっと昔は、日本武尊が女装して熊襲を打った。 15分も歩くと和気の湯。更に10分歩いて犬飼の滝まで足を伸ばす。 板敷の大広間での朝食後は、もうすこし歴史に浸ろうか、ゴルフや乗馬で身体を動かそうか−−−。 霧島は自然と遊ぶ場所が多い。ゴルフ場も、乗馬クラブも、アスレチックも。
持って帰りたいのは、この里で過ごした時間。取り戻した生気。時の忘れものと出会った喜びは、仲間への土産にしようか。それとも大事にしまっておこうか。 気のきいたお土産にはみんな心がこもっている。ひとつひとつ手作りの、素朴な中に味がある。