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第T章 既視感(KISHIKAN)
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馨(かぐわ)しい匂いが、陶酔をまとい降り注ぐ。

流れる時間の片鱗が、閑に語りかけてくる。

紺碧の水面(みなも)に目を細めると、

思考や感情を刺激するリアルな騒めきは遠のき、

懐かしさに似た既視感(デジャブ)が、走馬灯のように揺れゆく。

無数の心の襞(ひだ)をたぐり寄せ、今宵、

癒しの岸辺(リトリート)に辿り着いた。

第U章 光波(KOUHA)
私が私である遥か以前に実在した、雅な魂の叫び。
秘めた内奥から湧き出でる創造の産物は、
地を穿ち、波を鎮める月光のように靭(しなやか)である。
過去といまを交差する、美と感性のコントラスト。
心を解き放つ快感と、胸を焦がす感慨はどこからやってくるのだろう。

第V章 典雅(TENGA)
たおやかな光を楚々とすい込む明かり障子が、
束の間の小休止を、深い安堵に変えていく。
書画や色のない木版画が醸し出す風雅な間に、
記憶に宿る忘れがたき日本の原形が浮かび上がる。
古木の生命を受けつぐ粋なしつらいが、
懐の清き奥底に刻み込まれていく。

第W章 異境(IKYOU)
身体中が不思議な興奮に包まれていく。
現実か、虚構か。
それとも、夢の果てか。
童話の世界に迷いこんだようなエキゾチックな憧憬に、
日常のすべてを脱ぎ捨て、誘(いざな)われてゆく。
洗練された佇まいは、うつくしき国の横顔。
洒落た台詞も演出も、必要ない。

第X章 迎賓(GEIHIN)
天の器にやわらかな光が戯れ、山海の歓びが五感を浸透してゆく。
喉もとを滴る甘美な旋律に酔いしれ、その止みがたき衝動に、
肉体の在処(ありか)を知る。
古き新しきが生みだすべきは、懐石とフレンチの妙。
研ぎ澄まされた美意識の共鳴が、身体をかけめぐる。

第Y章 邂逅(KAIKOU)
ゆるい放物線をえがき、夕闇が横たわる。
光と翳のあわいを彷徨い、移り行く時間に、この身をゆだねる。
理性の内側を満たす、慎ましやかな風韻が、開かれた窓へと、
己の精神をみちびいてゆく。
私は此処で、もうひとりの私に目覚める。

第Z章 余興(YOKYOU)
季(き)の彩りを熟す佳肴(かこう)と、
殿堂を華やかに包みこむ歌声。
嗜(たしな)む夕べに、心ほのかに打ち解け、
万象の真楽(しんらく)を反芻する。
懐かしき既視感(デジャブ)は穏やかな余韻にかわり、
岸辺を旅立つ朝を迎える。


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